2006年6月福岡公演のスナップ
え? なんですか?
講師でどこかに出向くとき、つい、私服で行きそうになるんだよね。ほら、芸人さんって、私服のまま「おはようございます!」って楽屋に入って、それから着替えるじゃない? 最近なんとなくあの感じに慣れちゃって(ポリポリと頭をかく)。ビジネス界の講師はスーツ姿で「こんにちは」と会場入りが基本だから。
田中さん、もう半分芸人みたいなもんですから、私服で行っても平気じゃないんですか?(笑)
さすがにそれはマズいでしょ。世間的にはまだオレ、真面目な会計士なんだから。ビジネス界だと楽屋どころか控え室すら無いことが多いよ。だから講師やるとき、気持ちの切り替えをするのがすごく難しいんだよね。いまはもう慣れたけどさ。
そうですね、楽屋で心をシャキッと切り替えて舞台に出ないと調子出ないですからね。でもボクみたいな若手だと楽屋がトイレってこともたまにありますよ。仕事が終わって家で着物を干してると、着物からほんのりシャルダンの香りがしたりして。
でもさ、落語家と会計士、2人別々な世界の意外なところが似ていたりして面白いよね。たとえば先輩・後輩の序列。落語界って、早く入門した方が兄弟子なんだよね。実力とは無関係に。
そうです。先着順です(笑)。早く入門した者勝ち。二ッ目、真打ちへの昇進は抜かれることもあります。でも上下関係は変わらないですね。田中さんの会計士業界はどうなんですか?
強いて言うならやっぱり先着順かな。試験に早く合格した人が先輩。合格の先着順。だから年配の人が遅く合格して「年長者の新人」っていうのがあるね。
落語界と同じですね。実際の年齢は関係なし、入門した順ですから、年いった前座さんがいますよ。特に最近は増えましたね。よその一門ですが、自分の師匠より年上の前座さんがいますもん。師匠が年下ですよ!
それはやりにくいね。我々の業界とは違って、たとえばプロ野球界なんかは完全に年齢序列だよね。入団が遅くても、実力は下でも、大卒や社会人出身の年長者の方が敬語使われるし。
今、ビジネス界は中途採用が当たり前の時代になってますもんね。そうすると年配の新人が大量発生するってことですから、先輩・後輩や年上・年下が複雑に絡んで人間関係が更にむずかしくなっていくでしょうね〜。
その通り。そのへんの問題があるから、お互いを「さん付け」で呼んでることが多いみたい。
上下関係が大変なのはどこの世界でも一緒ですけど、上下関係がハッキリしている落語界はまわりから見るとうらやましい世界に見える日が来るかもしれませんね。そうなると落語が好きで入門するんじゃなくて、上下関係にあこがれて入門してくる人が増えるかも。
う〜ん、「ありえるかもな」って思えるところが恐ろしい。そんな人がメチャクチャ落語うまかったりしてね。あ〜こわいこわい(笑)。
それはそうと、いつか聞いた「落語界は集金みたいなもんだ」って話し、あれ忘れられないな、オレ。あまりにも共感して。
え?なんでしたっけ?
日経キャリアマガジン連載
記念すべき第1回の下書き原稿
そう、そうなんですよ(強く頷く)。昼間に自宅の電話に出ると「あれ、今日休み?」とか言われるんです。「いつも遊んでるみたい」って思われるのってつらいですよね。頑張っていても。
みんな「朝、会社に行って、夜まで拘束されること」が仕事だと思っているからねえ(苦笑)。落語もビジネスの講演も、準備が一番大変で、本番は集金みたいなもんなんだけどね、ホントは。オレさ、最近本の執筆と講演の仕事が増えてるから、どっちもすごい準備の時間が必要じゃない? 本を読んだり、喫茶店でボーッと考えごとしたりさ。すると子どもに言われるの。「パパ最近暇そうだよね」って。もう、ガクッって。事実だから反論もできないし(笑)。
あ、そろそろ落語会の会場に行く時間だ。田中さん、スミマセン。そろそろ失礼します!
ほんと、こんな時間だ。じゃあ志の吉さん、集金がんばってね〜(笑)。
注)立川志の吉は対談後、上野で行われる落語会へと向かいました。
彼は都内各所の落語会に出演しています。
まだ落語を知らない方はどうぞ一度お越しください。
立川志の吉のプロフィールや最新スケジュールについては
立川志の吉 勝手に応援サイトをご覧ください。